化学気相成長法(CVD法)によるカーボンナノチューブの大量合成とその環境浄化デバイスへの応用

<研究の背景と位置付け>

 21世紀のエレクトロニクスを支える根幹材料として期待されているカーボンナノチューブは、1991年に(当時)NECの飯島澄男博士により発見されました。このカーボンナノチューブは直径0.7〜70nmで長さが数十μm程度の円筒の形をした炭素の結晶の一つで、優れた導電性・熱伝導率・機械的強度を持つ事、構造の違いにより金属にも半導体にもなりえるという稀有な特徴から、発見以降世界中でその合成法・物性および応用に関する研究が行われてきました。
 単一の炭素の層からなるカーボンナノチューブを単層カーボンナノチューブ、複数の単層カーボンナノチューブが入れ子構造になったものを、多層カーボンナノチューブと呼びます(図1)。
 トランジスタ(FET)・電界電子放出型ディスプレイ・水素吸蔵材料等、カーボンナノチューブを構成素子として用いるデバイスは、研究室レベルでは成功例が報告されています。しかし、カーボンナノチューブの大量生産技術は未成熟であるためにその価格は依然として高価であり、更なる研究開発・製品化のためにはカーボンナノチューブの大量な供給が求められています。同時に、純度が高く、直径・長さ・構造(カーボンナノチューブの層数)等の特性が均一なものでなければなりません。その中で、私たちはより安価・高品質のカーボンナノチューブを大量に得ることができる、比較的シンプルな作製プロセスを確立することを目的に研究を行っています。
 カーボンナノチューブの合成法には、代表的なものにアーク放電法、レーザアブレーション法および化学気相成長法(CVD法)があります。本研究室では、CVD法を用いてカーボンナノチューブの合成を行っています。(本研究室では、並行してレーザアブレーション法により単層カーボンナノチューブの作製を行っています)。同法は、一度に大量のカーボンナノチューブを合成できる方法として知られており、また実験パラメータが非常に多いので、それらを最適化することで作製されるカーボンナノチューブの直径・長さ・配向性(成長方向)を自在に制御できる可能性を持っています。この方法を用いて、長尺・高密度のカーボンナノチューブを支持基板に対して垂直方向に揃えて成長させることに成功しました。

<研究成果および課題>

本実験では、まず支持基板へカーボンナノチューブの成長へ不可欠な鉄触媒薄膜を堆積させ、その後CVD法により鉄触媒を核としてカーボンナノチューブを成長させました。最も長いもので、繊維方向へ長さ約1.2mmのものが得られました(図2(a))。拡大して観察すると(図2(b))、カーボンナノチューブ1本の直径はおよそ15nm程度であり、多層カーボンナノチューブが絡まりあって成長していることが分かりました。今後はカーボンナノチューブ成長の核となる触媒を数nmのサイズの粒子へと微細化し、長尺の単層カーボンナノチューブを大量合成できる条件を調べていきます。私たちの研究室では、作製したカーボンナノチューブを大気汚染監視計測用ガスセンサへ応用する研究を行っています。カーボンナノチューブは大きい表面積を持つため、高感度ガスセンサ用素子として期待されています。試作したカーボンナノチューブガスセンサは、大気汚染ガスであるNO2ガスを1〜2ppmという低濃度のものまで検出可能であり、現在は改良によって目標値である0.1ppm以下の濃度のNO2ガス検出を目指しています。また、カーボンナノチューブの環境浄化(水質改善・土壌処理)デバイスとしての応用も検討しています。



<担当学生>
上田 剛 (2004年4月(M1)〜) 


Fig.1




Fig. 2