薄膜固体リチウムイオン電池に関する研究

<研究の背景と位置付け>

 現在、ノートパソコンや携帯電話などといったモバイルツール用電源として、 リチウムイオン電池が利用されています。その理由として、これまで利用されていたニッケル水素電池、ニッケルカドミニウム電池に比べ、エネルギー密度が高く、電圧も4Vと他の電池に比べ高い電圧を得ることができ、さらに自己放電率が少ない、メモリー効果がない、などといった優れた特性を持っているからです。このリチウムイオン電池を薄膜・固体化することにより、軽量化、小型化することができる。これにより、電池を半導体の集積回路上に組み入れることが可能となるため、超小型の電子機器やロボット、マイクロセンサー、ICなどの動力源として期待されている。安全性の面からみても、固体電解質を用いるので液漏れの心配もなく、リチウムイオン電池は有機溶媒に可燃性のリチウム塩を用いているが、それによる発火などの危険性を排除することができる。電池の基本的な性能は、あくまでも使用する材料に左右され、その材料の限界が全体の電池システムの行き着く先を作用する。その中でも正極材料は、電池の電位を規定するとともに、容量、可逆特性についても、システムの特に重要な役割を負極とともに担っている。リチウム二次電池の正極材料として、すでに実用化されたLiCoO2のほか、LINiO2やLiMn2O4がいわゆるビッグスリーとして一般に認知されている。容量、電位,可逆特性、安全性など、改善する点は数多くあり、現在の材料が最良のものであるとは考えられない。このような現状をふまえた上で、未来の電池システムを構成するためには、そのシステムに適した材料面でのブレークスルーが、いまなお必要とされている。
 本研究では、PLD( Pulsed Laser Deposition ) 法によって基板温度、雰囲気ガス圧を変化させてITO基板上にLiMn2O4、LIPON およびV2O5薄膜をそれぞれ堆積させた。XRD によって作製した薄膜の結晶構造を解析し、堆積条件の変化が堆積膜の結晶構造に及ぼす影響について調べた。また、AFM によって表面形状を解析し、堆積条件が表面形状に及ぼす影響を調べた。 さらに、CV(CyclicVoltammetry)によって電気化学的特性を解析し、堆積条件の変化が薄膜の電気化学的特性に及ぼす影響を調べた。

<研究成果および課題>


正極材料としてのLiMn2O4の最適作製条件は基板温度600℃酸素ガス圧力100mTorr、レーザーフルエンス2J/cm2、ショット数30000shots。負極材料のV2O5の最適作製条件は基板温度R.T、酸素ガス圧力50mTorr、レーザーフルエンス2J/cm2、ショット数30000shotsとなった。固体電解質としてLiponを用い、この条件で薄膜固体リチウムイオン電池の作製に成功した。今後の課題として、サイクル特性の改善をしなければならない。サイクル特性の劣化の原因として今考えられるのは、充放電時に膜が劣化し電極間で短絡してしまったからだと思われる。




<担当学生>
前野慎治 (2005年4月(B4)〜2007年3月(M1))
辻敦史 (2006年4月(B4)〜2007年3月(B4))